ただの映画日記

備忘録として映画の感想文を書いているだけ。

「怪物」感想

2023.06.03 初回鑑賞

是枝裕和監督/日本/2023年

 

 良かったです。実写映画ではすごく久しぶりに観た邦画だったなあ。よく練られた脚本、子役と周りを支える大人たちの演技力、美しい音楽、時代に即したテーマ。きれいに完成されたようで未完成で、想像を掻き立てられるシーンがそこかしこにあって、美しいけど切ないようなんとも言い難いストーリー。人間って複雑な生き物だなって、感じた。

 

 カンヌの脚本賞を取っただけあって、すごく引き込まれる面白いストーリー構成だった。背景としては学校でいじめが起きていて子供、親、教師の間でいざこざが起きているっていう分かりやすいものなんだけど、誰が本当のことを言っているのか分からず疑心暗鬼になったり噓をついたりするっていう複雑な内面の駆け引きを、様々な人物の視点から、ストーリーの時系列を行き来しながら描いている。だから視聴者はひとえにこの人が正義でこの人が悪だと決めつけられずやきもきする感情を掻き立てられる。みんな自分の大切なもののために動いているから憎めないし、かといって完全に味方できもしない。結局人間関係ってそういうものなんだな、って。

 予告でも出てきた「怪物だーれだ」っていうセリフが、この作品の登場人物たちを良く表現してたなと思った。みんな間違ったことはやってない(校長は謎)んだけど、自分の行動が知らず知らずのうちに誰かを傷つけていることなんて当たり前にあって、それが取り返しのつかない結果を招いたときに、「じゃあ誰が悪かったの?」ってなるけど、そんな追及は複雑な人間関係の中で本当に無意味。だって良し悪しの基準なんて人によって違うし、ある人にとっての幸せは別の人にとっての不幸なんだから。

 「怪物だーれだ」がすごく印象的ではあったけど、一番心に来たセリフは校長の「そんなことは本当にしょうもない。誰もが手に入らないものを幸せとは言わない。」って言葉。いけ好かない校長だったけど、人生経験を感じさせる言葉だった。ほんと、人生の大抵のことはしょうもないよな。だって人はどうせ死ぬんだから。どんだけ稼いだって偉くなったって好きな人ができたって死んだら関係ないんだから。流石に「どうせ死ぬなら今死のう」とは思わないけど、死ぬのはめんどくさいし痛いから生きてるだけなんだよ、生物は。って校長の話を聞いて改めて思いました。

 

 結局孫を引いたのは校長だったのか、ガールズバーに火をつけたのは本当に星川くんだったのか、湊は何故ホリセンを標的にしたのか、作文の上段には何て書いてあったのか、最後は死んだのかそうじゃないのか、明快にならなかった場面が多かったけど、そういうあいまいな部分が人間の完全に理解できないような難しい部分を表現しているような気がして狂気さと美しさを感じた。ホリセンが小学生の時に書いた作文に結婚のことを書いたり女性と会っていたのを見て妬んじゃったのかな。あとホリセンが校長室で飴食ったのもまじで謎。彼女に肩の力抜いて適当に行けって言われてたにせよ、あのタイミングで飴はないだろ(笑)まあでもあんな風に濡れ衣着せられて冷静な精神状態でいられる人も少ないか。

 あと音楽、かなり少なかったのは日本映画あるあるの延長なのか、それとも現実味を出すためにわざとなのかはわからなかったけど、やっぱり自分はもう少ししっかり音楽がついていたほうが好みかな。坂本龍一のピアノはものすごく綺麗だったけど。

 

 ところでこれはこの映画の本質ではないと思うから本作の感想ではないけど、ジェンダーマイノリティをテーマとして描くのはそろそろ終わりにしないか。正直もううんざり。いつまでやるのって感じ。マイノリティを好奇の目に晒される対象として、問題の中心として扱うなら、それは平等じゃないだろ。少し前までそういった差別が問題になったから訴えかける意味でそういった映画がたくさん作られてきたのは理解できるけど、もういいでしょ。主人公のクラスメイトとして同性愛のカップルが普通に映っていて、別に誰も何も言及していない、ぐらいでいいじゃん。同性愛者は変だ、珍しい、いじめられて可哀そうだ、っていう話をやりすぎだよ。そろそろポリコレも身を潜めてほしい。そんなことより地球温暖化をテーマにした作品やろう。急務だよ。