2023.03.26 初回鑑賞
平尾隆之監督/日本/2021年
ハリウッドでの映画製作について、日本のアニメで描いた作品。内容はアメリカ映画の現場の話なのに作風は完全に日本の特色が出まくりなところがチグハグな感じで面白かった。日本のアニメ制作技術はやっぱり素晴らしいなー。特に今作は、作画に関してカメラワークや場面転換が凝っていて丁寧な作品だと思った。演出や音楽も日本アニメらしい大げささがあってウケた。途中あんまりBGMないのに、いきなり歌モノのバンド音楽が入ってくるところとかね。
ストーリーとしては一流プロデューサーであるポンポの下でアシスタントをしているジーンが初めて監督作品を作る話。携わることになったのは、傲慢な指揮者と田舎に住む少女の出会いを描いた物語。指揮者は超大物俳優、少女は今作で初めて起用された新人女優が務めるロードムービー風の映画。ジーンは小さいころから無数の映画を鑑賞し、アシスタントとしても沢山の撮影現場を観てきたので、そこで培った感性や技術を初めての作品に落とし込みたいと思っている。しかし実際に映画を作るのはもちろん想像するほど簡単ではなく、天候に左右される撮影スケジュールや撮った映像の取捨選択、編集後の追加撮影のための予算不足など乗り越えなければいけない壁は多い。が、出演する俳優や、高校の同級生で今は銀行員の友人や、先輩映画監督やポンポの助けを借りて最後にはアカデミー賞物の映画を作る。
といった単純明快な物語。最後があまりにできすぎていて急に冷めた。正直あそこまで大団円に収める必要はなかったんじゃないだろうか。だって今回が一作目の監督と女優がアカデミー作品賞と主演女優賞取るって…さすがに現実味なさすぎるでしょ(笑)急に感情移入できなくなったよ。ってかその年どんだけ他にいい映画なかったんだよ…初めての作品で途中いろいろな問題が生じたけど、最後は映画愛と長年培ってきたセンスと技術とで何とかいい作品に落とし込めました。それなりにブレイクしたし監督業もこっからが本番だ!的な未来を想像させる締め方がよかったなあ。まあ大団円ハッピーエンド系は日本の映画にありがちだからね…
ストーリーは置いといて、セリフ一つ一つにメッセージ性が込められていてグッとくるものがありました。特に先輩監督の「世間受けを狙ったら八方美人のボヤけた映画になっちゃうでしょ。それよりも誰かひとり、その映画を一番見てもらいたい誰かのために作ればいいんだ。そうしたらフォーカスが絞られて作品の輪郭がグッと立つ。」っていうセリフに、この作品の映画への向き合い方すべてが詰め込まれている感じがした。誰のために、何のために映画を作るのか。その映画を通して誰に共感してほしいのか、何を伝えたいのか。そういうのがはっきりしている映画ほど、特色があって観やすいし余韻にも浸れる。要はその映画の監督色が強く出るってことだろうか。世にこれだけ作品が溢れかえってる時代、量産型の映画は埋もれていく一方だからね。
ジーンが今回作った映画に込めたメッセージは、「何かを選ぶには何かを諦めなければいけない」ということ。でもそれが挑戦するということなんだと、誰にでも共感できるメッセージ。実際映画監督は作っている最中、メッセージ性を常に念頭に置いて作品作りを進めているんだろうな。映画好きにはなかなか興味深い作品だったと思います。でも一番気に入ってるのはやっぱり尺が90分ってとこかな。