2022.11.09 チネ・ラヴィータ 初回鑑賞
S・S・ラージャマウリ監督/インド/2022年
祖国を盛大に祝福した劇なのだ。と思った。アクション・演出・音楽・ストーリーとあらゆる面から楽しめた。すごく楽しかったです。面白いというより楽しかった。観客を全力で楽しませに行くぞ、というインド人のエンタメ精神のようなものを垣間見た気がする。ノリノリで観ました。
インド映画は3 idiots以来、そして初チネ・ラヴィータ。スクリーンも座席数も小さいけどこういうのが昔ながらの映画館ってやつなのかな。IMAXとかが音が自分の周りを荒れ狂うような感じだとしたら、こっちは文字通り音に包まれる感覚。なんか趣があってこれはこれで良かったです。にしてもIMAXどころか上映すらしてないTOHOシネマズ仙台は何やってんだか。
音楽がとても良かった。特に冒頭のパーカッションの音が四方八方から観客を包み込んで映画の世界に手招きしてくる感じがたまらなかった。BGMはどれも演出として大げさな感じでそれが映画というより劇っぽく、コミカルさもあり英雄譚には良くハマっていたと思う。
ビジュアル的にはゲームのような作画。登場する二人の英雄は実在した革命家をモデルにしたらしいけど、VFXやタイトル文字がアニメチックでこの映画自体は「作り物」であることを強調したように感じた。あくまで実話をそのままに話し「こんな素晴らしい人たちのおかげで今のインドがあるんだね」としみじみするのではなく、「この人たちもはやスーパーヒーローじゃん?空も飛べたし巨大なトラだって素手で倒せたんじゃね?」という調子のいい誇張とともに笑いながら手をたたき祝福する。そんなテンションの作りだった。
全体的には英雄譚なんだろうけど、アクション・時代劇・サスペンス・ミュージカルと様々な要素が詰まっていて、どの角度からも楽しめた。しかし特に凄かったのはアクションの完成度。橋の上からロープを使って飛び降り川にいる少年を助けるシーンとか、最後の方ラーマを独房から救い出しビームが肩車して戦うシーンとか、炎の中を馬とバイクで駆け回るシーンとか大迫力…と同時に、IMAXで観たかったと強く思った。IMAX上映凄い評判良いし。すずめに占領されてる場合じゃないんじゃない?2か月ぐらいやってほしい。遠くの劇場でも観に行くから。
作画だけでなくストーリーの構成も劇らしさを感じさせた。まずイントロがあり、話は2部に分かれている。3時間という超長尺。テンポはいいけど本当に長い。なんなら途中で区切りが入ったりするから、この前観たロードオブザリングの3作目より長く感じた。ドラマを何話も一気観している感覚だ。段階を踏んでいくからストーリーは追いやすく分かりにくい伏線を張るような作品でもないので、それがまた純粋に作品を楽しめた理由の一つだろう。冒頭でFIREとWATERというイントロの章があり、その後ラーマ=炎、ビーム=水の対比が美しかった。松明を持って戦うラーマと水のホースを持って戦うビーム。炎の中から姿を現すラーマと沼の中から姿を現すビーム。画面の使い方も上手くて二人が対峙する場面で一瞬ポスターみたいな絵面になるのがカッコよくて好きだった。
ミュージカル的な要素があるのもこの映画の特徴だ。主にインドの文化の良さをアピールするのに大きな役割を果たした。イギリス人とインド人が混じって踊るナートゥは人種や性別を超えて広がってどんどんノリノリになっていくのが観ていて爽快だった。動きもコミカルだし主役の二人はめちゃくちゃダンス上手いし(笑)エンディングも良かった。そして中盤の鞭打ち台に釣られながら歌うビームは、レ・ミゼラブルやパイレーツオブカリビアンを想起させた。歌が民衆の心を動かすっていうのは革命の物語にはありがちな気がする。
いろいろな賞を受賞したりノミネートされたりしているみたいだけど、アカデミー賞を取るようなテイストの作品ではない気がする。そういうのでは図れない面白さがあるというか、他の作品とは比べられない唯一無二な感じがします。