ただの映画日記

備忘録として映画の感想文を書いているだけ。

「メッセージ」感想

2022.09.07 2回目鑑賞

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督/アメリカ/2016年

 

 一度目は映画館で高校生の時観ました。しかもガーディアンズ・オブ・ギャラクシー2と連続で。だから印象が薄れてしまったけど、これは深いいSFなのだ。ただ、確実に余程の映画好きかSF好きかキャストが好きかとかじゃないと魅力を拾いきれない映画なだけで。というか、大人向けという感じがした。内容も複雑ではないが小難しいし、何より派手さが一切ない。インパクトはあるけど華やかではない。そんなSF映画です。

 

 地球上のさまざまな国に飛来した宇宙船の調査に駆り出されたのは論理物理学者のイアンと言語学者のルイーズ。宇宙船の中にいる地球外生命体との意思疎通を試みるよう、あらかじめ調査に入っていたアメリカ軍とともにばかうけの形をした縦に細長い巨大な宇宙船に入っていく。

 まず注目したいのがこの宇宙船に下部の入り口から入っていくシーン。途中まではしご車で上がっていくのだが、一定の高さまで来ると重力がゼロになるので、そこからは垂直にそびえたっている壁を横向きに歩いて登っていけるのだ。上から映しても下から映しても不思議な感覚にさせられる。普通に歩いているようなのに、真下は地面。地面と、壁とは垂直で「高さ数十メートルってところに浮いている」って事実を思い出すとぎゅいんと現実に引き戻され急にゾッとする。特に上から地面を映すシーン、長いトンネルに自分まで入り込んでいるようで臨場感が凄い。壁を歩くってシーン映画なら多いはずなんだけど、このシーンは筒の中の壁を歩いているところを筒の内側から映しているから全体像がよく見えず「壁を横向きになって歩いてる!」っていう感じはなくて、暗い中を地面から数十メートルのところで命綱もなく逆さに浮いている、みたいな感覚。しかも宇宙船は地面から浮いてる!今までに味わったことのないものだったのでこのシーンだけでも何度もリピートです。

 そして最上部にたどり着いたら現れる宇宙人。っていうか超巨大タコ型ET。やっぱり二足歩行生物の進化の先って、ああいう頭でっかちになるんだろうか。(悪口ではない)

 ETの観た目が独特かと言われれば、正直のところよくわからない。なぜなら霧に隠れて全貌が見えないから。敵意はないのに大きさのせいで威圧感が凄い。そして腕の一本から放出した黒い炭みたいな流動性の物質を自由自在に操る技術。地球上の生命体とは根本的に体の仕組みが違うようだ。などと考えを広げたくなるが、この映画の真のテーマは宇宙とか生物とかではなく言語。この巨大な、そして言葉を交わすことは不可能なETとどのようにコミュニケーションをとり、いかにして彼らの目的を聞き出すかが主人公たちのミッションだ。

 

 そしてもう一つ注目すべきが、ここまで(というか最後まで)目立った音楽がほとんどないこと。まるで宇宙船の発する音とETの発する声と区別がつかないような滑らかで重厚感のあるメロディ…というより振動。なんせこの作品はアカデミー賞の音響編集賞受賞作品だ。少し不穏で緊迫感があり、大音量で聴き続ければ耳障りともなりかねないざらざらとした音質の、しかし不快ではないサウンド。これが宇宙船の登場時や乗り込むときに流れるのでインパクトが凄い。宇宙船のシンプルで真っ黒なシルエットと相まってものすごい圧迫感だ。高校生の時は正直ストーリーに夢中でそこまで音に注目してなかったけど。もう一度映画館で観たい…IMAXで再上映してくれ…

 

 この作品は今の世界情勢なんかをバックに観ると、非常に得るものが大きいように感じる。中国をはじめとしていくつかの国が武力で宇宙船を撃退しようと先走る中、ルイーズとイアンは迫りくる状況の中で言語での意思疎通を試みる。最終的に中国のトップを説得するのは言葉だ。人は言葉が使えるからこそほかの動物と違って縄張りや食べ物、メスを奪い合って争う必要がないというのに、なぜ話し合おうとしないのか。結局人間も本能的な動物の一種に過ぎないのか。人間がほかの動物より秀でているというつもりはないが、言葉という我々が手に入れたアドバンテージを爆弾一つでなかったことにしてしまうのはあまりにも勿体ないことだし、同じヒトとして残念にも思う。

 言語というのは規則性・再現性のあるものであるから、もし違う言語を使う種族や生命体に遭遇したのだとしても、時間をかければお互いの言葉を解読できる可能性が高い。相手が攻撃の意思を示さないのなら、ヒトは見知らぬ種族に対して我慢強くなるべきである。高度な知能を持った生物として会話の糸口を探す努力をすることが、平和的な解決につながりさらには新しい知識や考え方を手に入れる機会にもなるのだから…

 

 …とあまあそんなことを考えましたね。深いい。一方でこの映画には伏線回収されていない部分が多数ある。例えば、結局ETたちが地球に来た目的は何だったのか??ルイーズが未来を観る力を持っていることを伝えに来たのだとしたら、一人の人間に対して大がかりすぎでは…みたいな(笑)そもそも宇宙船が飛来してこなければ混乱や暴動や武器の使用なんて起きなかったはずなんだけど…やっぱり地球の何かに目的があるんだろうけど、そこまで話を広げてしまったら軸がブレブレになって収まりも悪くなってただろうから、視聴者の中で妄想するにとどめておくぐらいで正解なのかも。