ただの映画日記

備忘録として映画の感想文を書いているだけ。

「ターミナル」感想

2022.10.17 初回鑑賞

スティーヴン・スピルバーグ監督/アメリカ/2004年

 

 ジャンル的には心温まるヒューマンドラマなんだけど、コミカルさやぶっ飛び加減がスピルバーグだなあと。飛行機が止まった原因が悪天候とかではなく戦争なのが、ターミナルでの日常の裏に壮絶さを忍ばせていて何とも言えない複雑な気持ちで主人公を追っていた。

 

 主人公のナボルスキーはある目的で母国クラコウジアからニューヨークに飛ぶが、飛行機がクロコウジアを出た直後にクーデターが起こったことでナボルスキーは国籍を失ってしまう。パスポートが無効になりアメリカへの入国ができなくなってしまったナボルスキーはジョン・F・ケネディ国際空港のロビーで戦争が終わるまでの間待たされることになる。ナボルスキーは英語をあまり話せず空港の入局審査員や国境警備局員とのコミュニケーションがうまくいかない。なんとか空港から出られないことを理解したナボルスキーは空港にて途方に暮れる。そんなナボルスキーだったが、長時間空港で過ごすうちに飲食店の店員や清掃員となかよくなり、さらに改修工事の作業員として雇ってもらえることに。

 クロコウジアってロシアの近くの架空の国らしいけど、その国の架空の言語をなんとトムハンクスがアドリブで話していたとか…天才かよ。彼の演技は全体を通して本当に素晴らしかった。誠実で寂しくて不器用で、しかしところどころで突飛な思いつきをするナボルスキーを見事に演じていて、ネイティブのクロコウジア人かと思えてきた(笑)さらに国境警備局のディクソンを演じるスタンリー・トゥッチや飲食店で働くエリンケを演じるディエゴルナ、清掃員のグプタを演じるクマール・ラパーナの演技もそれぞれキャラクターを特徴づけていて素晴らしく、それぞれがナチュラルな演技なのでコメディ要素が強くてもドラマチックでロマンのある雰囲気を保っていたのがとても良かった。

 そしてスチュワーデスのアメリアを演じるキャサリン・ゼダ・ジョーンズが綺麗すぎた。美。彼女との出会いは、この作品に故郷や実家への強い思いのほかに、「待つことは素晴らしいことだ」というもう一つのテーマを印象付けている。そもそも戦争が終結アメリカに入国できることをずっと空港で待ち続けているナボルスキーだが、そんな絶望的な状況のなかでアメリアに出会い定期的に空港にやってくる彼女を待つことが心の支えになっている。人は皆何かを待っていて、その待つこと自体に意味があるのだとナボルスキーは深く悟っているようだ。

 最後にはついにナボルスキーがニューヨークへ来た目的が明かされる。彼は父が大ファンだったジャズクラブのサックス奏者のサインをもらいに来たのだ。最後、無事に演奏会のあるホテルに到着しサインをもらおうと紙を差し出したナボルスキーだが、「演奏が終わった後ね」と言われて演奏を聴かせる場面があったのが素晴らしかった。そこからエンドロールまでのつながりが凄く美しくて、エンドロールで制作陣のサインが流れるのがとてもハイセンスで良かった。

 

脚本も、ところどころ「さっきはあんなに英語聞き取れてなかったのに、ここでは通じちゃうんだ」みたいなご都合展開もあったものの、全体的には綺麗な流れで主人公が徐々にターミナルでの交流の輪を広げていくのがストレスなく観れたし、なによりカメラワークはさすがスピルバーグだなと感じた。アップで写していた主人公をぐっとルーズにするようなシーン、人や物音であふれかえっている空港なのに彼が孤独なんだということをカメラの動きだけで表現していてとても良かった。

 あとはもう少し最初の方からさりげなくジャズミュージックをBGMとして入れるとかしてジャズを強調していたらもっと良かったかもしれない。