ただの映画日記

備忘録として映画の感想文を書いているだけ。

「鋼の錬金術師 / 復讐者スカー」感想

2022.05.20 TOHOシネマズ仙台 初回鑑賞

曽利文彦監督/日本/2022年

 

 

※原作ファンの感想です

 

 まずはストーリーの構成に関して。思ったほど悪くはなかった。2時間20分という長尺。まあ一瞬に思えたということはなくて、途中長いなと思ったけど退屈さを感じることはなかった。ぎりぎり踏ん張った感じか。そして予想以上に原作沿いで話が進んでいたので(正直鋼錬実写2作目と最初に聞いたときはシン国だとかイシュバール殲滅戦だとかマスタング組だとか、そんな細かいところまでカバーするとは思っていなかった)原作ファンとしてはそれほど違和感なく観れたのではないだろうか。シンの人々との出会いやクセルクセス遺跡のシーンなどは改変があったもののかなりナチュラルな繋ぎとなっていた。3部立てとは言え全部で6時間前後の映画に漫画27巻分のストーリーを収めるので当然ストーリーの改変と再構成は必要で、いかにそれを無理なくかつ原作の内容を壊さず創り上げるかは、漫画を原作とする映画で最重要である。ビジュアルや身体能力など非現実的な部分を忠実に再現するのが不可能な漫画であればあるほど、ストーリー構成や演出でどれだけ工夫しカバーできるかが大事だ。とにかく本作は「鋼の錬金術師という漫画の設定だけを借りた全く別の何か」みたいな下手なことになっておらず、ストーリーの面ではしっかり原作を踏襲していたように思う。その一方で原作を全く知らない人にとってはイシュバールにシン国にホムンクルスのお父様にエドのお父さんにと、少し話が右往左往して着いていくのが大変だったのではないだろうかと思う。実写化一作目を観ていなければなおさら、次々と出てくるキャラクター達を覚えることすらできなかっただろう。まあそれは漫画の映画化あるあるだけど。今回は最低エド、アル、ウィンリーちゃん、スカー、大佐、中尉、リンヤオ、エンヴィー、グラトニー、ブラッドレイぐらい分かれば何とか話は分かったかな?…いやそれでも多いな(笑)

 今回のタイトルが「復讐者スカー」ということで、やっぱり一番の見せ場はスカーにウィンリーちゃんが銃を向けるあの名シーンだったのではないだろうか。「誰かが耐えなければ復讐の連鎖は止まらない」という作品全体を通しての強いメッセージを乗せたシーンであるだけに、演出にもかなり力が入っている感じがして個人的には好きだった。演技もまあまあ引き込まれた。ウィンリーちゃんの表情が少しわかりにくかったけど。でもこのシーンがしっかり印象深かったおかげで全体的に厚みが出た気がします。「お前の手は人を殺す手じゃない、人を生かす手だ」の台詞に説得力を持たせるために、ちゃんとロックベルの家に並んでる患者さんたちをちらっと映したのは良かった。赤ちゃんとりあげるシーンがなかったからね。

 ってかホントは各シーンについて細々感想書き残しておきたいんだけど…あーもう書ききれん。

 

 続いてキャラクターの解釈について。まず最も気になったのがマスタング。彼はこんな真面目腐った冷静なキャラじゃないだろ。強い力を持つ分戦禍では冷静ながら上に上り詰めたいという熱い情熱を持ち、かつ仕事をさぼったり抜けてるところがあったりと多面的な人物なのだ。真面目以外の要素がほとんど抜け落ちている演技だったおかげで(特に表情にほとんど変化がない)せっかくの「雨の日は無能」のシーンが台無しだった。ほんとに。あのシーンが観られるとは思っていなかっただけに、余計にがっかり。クスッとも笑えなかったよ。

 スカーはまああんなものかな。もっとゴツくて険悪な雰囲気が良かったけど、ヴィジュアル的にも厳しかったかな。

 シン組は総じて良かった。ヴィジュアル面で無理がないというのもそう思わせた大きな要因だったけど、リンの余裕のある感じやメイチャンのちょこまかせわしない感じが良く表現されてたなと思う。ランファンの腕を斬るシーン良かったです。「捨てるものなどいくらでもありましょう」の台詞の言いまわし、かなりアニメに近くて感動した。

 それともう一人目を引いたのがキンブリー。あの役者さんはかなり原作とアニメを勉強してきたのかな、と思わせる役作りだった。特に表情と台詞の抑揚。アニメにとても忠実でした(なんか声も似てた気がする笑)。ただ少し残念だったのが、「素晴らしい!賢者の石!」(賢者の石は台詞になかったけど)の部分でめっちゃ飛び跳ねてたこと。キンブリーは性格に難あれど、もう少しエレガントな立ち振る舞いをする人だと個人的には思いますね。

 ウィンリーちゃんはとにかく難しい役ですよね。ただのエドについて回る幼馴染の守られヒロインじゃなくて、機械鎧技師としてしっかり働いてかつ仕事に対する確固たる腕と情熱を持ってる信念の強い人。表情のせいか、やっぱりか弱い女の子に見えてしまうのが残念。でも今回に関しては、対スカーのシーンがかなり良かったのでイメージアップ。

 そのほかのキャラに関しては、エドがリンよりだいぶ年上に見えたこととかが気になったけど…ピナコ、ホーエンハイムホムンクルス組に関しては普通に想像通り。あ、でもエンヴィーの演技はなかなか彼の独特なキャラクターを良く表してて良かったと思う。

 

 続いて演出について。まずアクションとVFXがかなり良かった。特に最初のスカーvs銀の錬金術師の錬金術戦とそのあと水の中からタイトルにつなげる演出がとても迫力あって良かった。列車内のアクションもなかなか。スタントダブルの賜物。音楽について、これは日本の映画あるあるだと思うんだけど、なんであんなに音楽なしのシーンが多いんだろう。感動的なシーンや派手なシーンではしっかりカッコいい音楽がついているんだけど、静かなシーンになると無音。最近の洋画だと音楽がないシーンはほとんどないと言ってもいいぐらい、静かなシーンでも気づかない程度の滑らかなストリングが鳴っていたりする。それがあったらもっと良かったのにな、というシーンが複数あった。

 カメラワークが残念なシーンもいくつかあった。特にアルフォンスをアップで映すシーン全般。アルは表情がなく動きも大きく緩慢な分、台詞の内容と画面がちぐはぐな感じがあった。感情のこもったパートでも動きがないからなんか棒読みに聞こえてしまうみたいな。そこをカメラワークでカバーしてほしかったなあ。ピタっと止めないで揺らすとか大きく横から前に振るとか。

 

 最後に衣装とビジュアルについて。前作でも思ったけど、衣装は全体的に良くできていたと思う。特にシン組の衣装を安っぽく見せてなかったので良かった。

 ビジュアルは、まあ西洋人キャラは置いておくとして、リンがカッコよかった。あと中尉。前作ではなんかヒョロヒョロしてて銃なんか撃ったら数メートル後ろに吹っ飛びそうだなという印象を受けたが今回は特に髪をおろしてるシーンがかなりイメージ通りで好みだった。前髪の立ち具合も好みだった。

 

以上!