2023.01.26 初回鑑賞
ヨルゴス・ランティモス監督/イギリス/2024年
公開日鑑賞でした。第96回オスカーにて、オッペンハイマーに続いて2番手の11部門ノミネートという期待の作品。R-18指定とは知らずに観に行ったんだけどゴリゴリのR-18作品でした。ベッドシーンにグロシーンも多々あります。一人で観に行ったほうがいい。
衣装や音楽、絵画のような建物や空など、世界観の作りこみがとても面白い作品だった。シュールレアリスムを美しく表現したみたいな。脳は子供だけど体は大人、科学者だけどロマンチスト、人は切り刻むけど子供が死ぬのは悲しい、など話の中にはチグハグなものがたくさん出てくるんだけど、世界観でそれをしっかり表しているような感じでした。中世ヨーロッパを思わせる作画なんだけど乗り物が浮いていたりとSF的な要素もあり、リアリズムを描いているようでどこか非現実的なちぐはぐさ。とてもシュールでした。
趣旨としては、「ヒトは何をもって人となるか」ってのを科学的な観点ではなく哲学の観点から考えようとしているような映画に感じました。川に身を投げて自殺した妊婦の胎児の脳を妊婦の死体に移植するっていうマッドサイエンス的な設定ではあるんだけど、あくまでSFではくヒューマンドラマとしている。体は大人だけど中身は生まれたての奇妙な「もの(Thing)」が世界を知らないまま外に飛び出してどう成長していくかっていう物語で、純粋無垢な視点で大人の世界を見つめると…。
まあR-18シーンはしつこいぐらいに(おそらく尺の半分ぐらい)見せられるんだけど、正直全くセクシーさは感じず、むしろ非常に動物的に見えました。おそらくそれを意図しているんだと思う。生殖は生物としての本能なんだけど、人間社会はそれを下劣なことと捉える。科学的に見れば、食物連鎖の頂点に立つ人間が数を増やしすぎないように生殖行為の本能がある程度制御されているのかなとか自分は考えているけど。哲学的になぜ人が(特に貴族などの社会的に上の立場になるほど)生殖行為を忌まわしきものと捉えるかってのがなんかしらあるんだろうな。そしてそれは何も教育されない子供にとっては本能=快楽に逆らっているように見えて不自然であると。つまり教育の力がなければ人間もほかの哺乳類と似たような行動をとるのだろうか。
「残酷さ」についてもテーマの一つとしていて、主人公のベラはマッドな天才医師のもとで育ったから人間を切り刻んだりキメラを作ったりということに残酷さを覚えていない。なのにスラム街で死んでいる子供はかわいそうだといい涙を流す。人間は(というより生物は本能的に)死ぬことを最も悪いこととしているし、ほとんどの社会のルールはそれに基づいている。動物である以上はそのことについて疑問は抱かないし、「生命は魅力的だ」という主人公の言葉通りだ。では命さえあるなら、体のどこを切り刻もうとそれは残酷なことではなく、むしろ人を殺すような残酷な人は脳みそをヤギと入れ替えて平和に草を食んでいたほうが優れている、成長だ、みたいな主人公の感覚。育ってきた環境が彼女をそうさせたのは明白だけど、もし現実にそういう人がいたらと思うと怖いね。ありえないことじゃないもんね。外の世界を見せずに異常な感覚を植え付けることって、教育を逆手に取ったような人間だからこそできることだもんね。
なんか全然映画の感想じゃなくなってるけど…あ、エマ・ストーンの演技はとてもすごかったです。人形みたいな目がゾゾゾ…っとした。奇妙な動きもR-18シーンの体を張った演技も、主演女優賞にノミネートされるだけのことはあるなと思いました。少しTARのケイトブランシェットを思い出した。女優さんってホント、きれいなだけじゃないんだよな…