ただの映画日記

備忘録として映画の感想文を書いているだけ。

「ミス・シェパードをお手本に」感想

2023.01.22 初回鑑賞

ニコラス・ハイトナー監督/イギリス/2015年

 

 コメディ感はなかったなあ。まあ強いて言えばマギー・スミスの演技がコミカルな場面もあったくらい。この作品、冒頭の「ほとんど真実の物語」があるかないかで面白さがまったく違う。自分はなぜか半分ぐらいまで実話に基づいた話だというのが頭から抜けていて、この映画は何を伝えたいんだ…と思っていたけど、ミス・シェパードが実在した人物だと思うと感慨深いものがある。ってかこの邦題はどうなんだ(笑)普通にThe lady in the vanで良かったのに。

 

 壊れかけのヴァンに住んでいるホームレスの老女マリア・シェパードはロンドンのある通りに路上駐車して住み着いていたが、見かねた通りの住人ベネット氏が家の庭の一角を彼女のバンを停めるために提供した。ベネット氏は劇作家であり、脚本のネタにするためにシェパードの人生に興味を持つが、彼女はシェパード氏宅のトイレを無断で借りたり隣人からの差し入れにお礼も言わなかったりと図々しさ全開でやりたい放題。音楽を嫌い、警察を恐れ、キリスト教の熱心な信者であるミス・シェパードだが、どうやら名前を偽っていることを知る。気づいたら15年もベネット氏の庭に住み着いた挙句、何が彼女を卑屈な人間にしホームレス生活を送る原因になったのかを知るのは、最後に彼女が亡くなった後のことであった。

 ミス・シェパードはかつてフランスの修道院で演奏していたピアニストで、有名な音楽家の弟子でもあった。音楽を嫌う原因になったのは修道院で祭司に「神への忠誠を誓うなら音楽をやめろ」と命じられたこと。それに反発した彼女は周囲から遠巻きにされ騙されて精神病院に入れられてしまう。そこを逃げ出し、ある日車で移動中にバイクとのカークラッシュを起こしてしまう。バイクが一方的に突っ込んできたもので彼女は無実だったが、それに気づかずその場を逃走したため彼女は警察に追われる身となりホームレスになったのだった。というストーリー。the lady in the vanのプレートは本当にあるんだろうか?最後はベネット氏がミス・シェパードに対して、昇天して天国では楽しくやっていてほしいという願いが込められている感じだった。

 

 本来宗教も音楽も生活に物理的に必要なものではなく我々の心を救うもののはずであるのに、宗教に音楽が阻まれてしまいそのせいで苦難の生活を強いられるって、なんか痛ましい。才能ある人が、何かをきっかけに舞台上から姿を消して誰にも知られず亡くなっていくのは、まあ現実ではよくある話なんだろうけど悲しいことですね。ミス・シェパードの場合は後世でこうして舞台や映画として語られているからマシなのかも。

 

 マギー・スミスはほんとに名優だよね。結構コミカルで大げさな演技だったりするのに、ああ、こんな婆さんいそう…っていう説得力がなぜかある。