ただの映画日記

備忘録として映画の感想文を書いているだけ。

「ブラックパンサー」感想

2022.10.17

ライアン・クーグラー監督/アメリカ/2018年

 

 ワカンダ・フォーエバーを観てから、あまり1作目を鮮明に覚えていなかったことに気づき改めて見直した。公開日に劇場に観に行って猛烈に感動して、円盤を発売後すぐに買って速攻で2回目観た覚えがあるけどそれ以来だったな。2作目観る前に復習しておけばよかったと少し思ったけど、後から観てもそれはそれで感慨深いものがありました。

 

 しつこく言うけど、このシリーズは最近のMCU作品の中でも屈指の上質音響作品。特に音楽がたまらない。アフリカンなメロディを基調に、シーンによってかなり幅広いジャンルの音楽が当てられている感じ。民族調のパーカッションが効いたトラップからギターがメインのロックまで。でも全部メロディの雰囲気が似てるから統一感はある。特に冒頭の奴隷輸送車を襲うシーンとかでさりげなく入ってくるコンガみたいな音から始まる音楽が世界観に溶け込んでいて個人的にとても好き。ワカンダの映像ももすごく綺麗で独特だけど、あの世界観は半分は音楽によって創り上げられているといってもいい。

 

 最近のMCUは多様性をかなりゴリ押ししている感じがするけど(まあ原作あるけど)、それによって新鮮で面白い世界観が生まれるのはとても良い。いろんなタイプのヒーローが無限に出てくるけど、ぞれぞれはっきり違った特徴を持っていて区別化できないと困るしね。ブラックパンサーの世界は、他国から農業と放牧で自給自足する発展途上国と思われているけど実はヴィヴラニウムという希少な資源を国土に保有することにより高度な技術を持つワカンダという国のちぐはぐな様子が面白い。科学は発展していて特に首都の内部はものすごく近代的な造りなのに、国民は伝統や信仰を大事にし、国王を選ぶ際は決闘。世襲制も根深い。まあ国王がブラックパンサーの力を授かるから強い肉体と運動神経を持っていないといけないんだろうけど、いつの時代だよ感もある。そしてワカンダは鎖国を徹底し、ヴィヴラニウムの存在を世界に隠している。技術は持っているのにそういった昔ながらの保守的でプロトタイプな部分があるから、この国と世界の摩擦を大きくし内外で問題を生んでいる。

 そういう設定に加え、ストーリーもすごく良くまとまった作品だと思う。かつてワカンダから外の世界に置き去りにされた一人の少年が大人になりワカンダに突撃。しかもその男ウンジャダカは王族の血筋だったために王の挑戦を受ける資格がある。これまでに何度となく戦争の経験がある彼は身体能力抜群で、父をテロで亡くし王になったばかりのティ・チャラに決闘で勝ち、ティ・チャラを滝に突き落として王の座を得る。ウンジャダカの野望は世界の弱者にヴィヴラニウム製の武器を配ることだった…

 本作、アメコミらしいご都合展開が少ないと思う。ウンジャダカ一人でも難なく国をひっくり返せてしまうワカンダの政治形態(?)、方向性には反対でも王に仕えようというオコエ、挑戦の勝敗はどちらかが死ぬか降参するまでだからティ・チャラが王座を奪い返す資格がある等…雑な映画であればウンジャダカを無理やり負かしてティ・チャラが王に戻ってくるんだろうけど、この話ではウンジャダカの正当性も認めている。彼は極端だけど、ワカンダから見捨てられたことをきっかけに復讐だけでなく、ワカンダの世界を見て見ぬふりをする姿勢を崩そうとした。やり方は間違ってたけど。だからウンジャダカにも共感できるし、一方で先祖たちの過ちを認め糾弾しながらもウンジャダカの早急なやり方を止めようとするティ・チャラも応援できる。非常にバランスが良く大人でも楽しめる展開だ。最近ではこういう真っすぐ過ぎないヒーローとか共感できるヴィランが好まれるよね。

 

 あとはキャスト全員の演技が凄く自然で良かった。特にティ・チャラとシュリの兄弟感、儀式で父と再開するウンジャダカの苦悩、オコエの宮廷につかえる兵士感。1作目ではあまり目立たなかったけど、2作目の女王の威厳とかもすごく良かった。チャドウィック・ボーズマンが亡くなってしまったのが本当に悔やまれます。